- 2016年8月22日

モバイル広告におけるアドフラウド――次なる戦いの舞台

「悪が栄えるために必要なのは、善人が何もしないことである」という有名な格言は、高度なデジタル広告詐欺(アドフラウド)が世界中のマーケティング費を脅かすはるか以前に考えられた表現ですが、この理念が今ほど大きな意味をもった時代はありません。詐欺に対抗するには、デジタル業界の全員が知識を身に付け、主体的に取り組むことが求められます。

IVTに注意
多くの国で「無効なトラフィック(IVT)」と呼ばれる現象のうち、全てではありませんが、かなりの割合がアドフラウドに該当します。コムスコアの調査によると、英国ではPCサイトTOP100の95%でIVT率は5%未満ですが、これらのサイトの44%はIVTが5%以上発生したセクションがあります。オーストラリアでも、PCサイトTOP100の95%でIVT率5%未満ですが、うち34%にIVT率5%以上のセクションがあります。従ってこれは、小規模なサイトやネットワークに限った問題ではないのです。

IVTインプレッションは、マーケターの想定ターゲットとは異なる人間への配信インプレッションといったものではなく、様々なbot、スパイダーなど、人間以外に発生させられたインプレッションです。中には無害なデジタル機能に由来するものもありますが、不正な方法で広告収入を得ようとする悪意ある高度なアクセスも増加しています。IVTインプレッションは完全な無駄であり、窃盗にほかなりません。

図1: IVTの種類

マーケターが想定するターゲットに接触することに重きを置くならば、自社のキャンペーンをあらゆる種類のIVTから守り、マーケティング費を詐取されないよう一層の注意を払う必要があります。

IVT、ビューアビリティ、リフト――マーケティング費を最大限に有効活用
IVTが引き起こす問題は、無駄なインプレッションによる損失だけではありません。配信インプレッションにIVTが与える影響は、ビューアビリティ、ブランドリフト、売上など、マーケター自身の業績評価の指標にまで及びます。対策を講じなければ、キャンペーン毎のIVT数のばらつきによって結果が異なるため、他指標でのベンチマーキングや最適化も、無意味でほぼ不可能なものになるでしょう。

図 2: IVTがビューアビリティに与える影響

これを受けて、先見の明があるブランド各社や代理店はリスクを認識し、自社キャンペーンにおける詐欺を監視し予防するため、最先端の技術を採用しています。詐欺は多様なbotを使って行われており、いかにも人間らしく見せるため本物のデバイスを(所有者が知らないうちに、あるいは所有者の許可なく)使って信頼性を高める作りになっている場合、IVTの検出はさらに難しくなります。とはいえ、その詐欺により、botの所有者が選んだ広告在庫に対しては広告収入が発生します。

この種の活動を検出し回避するには、できれば本物の人間の行動に含まれる要素を参考にしながら、多様なデータソースを使用し複数のポイントでチェックするしかありません。どのアプリ、モバイルブラウザ、IPアドレス、デバイスIDが本物の人間によるトラフィックでIVTではないかを判断するためには、パブリッシャーのタグやSDKから得たトラフィックデータ、パブリッシャーのネットワークから得られる同様のデータ、実際のユーザーによるパネルデータなどが必要です。

マフィアと広告の意外な類似性
どんな業界でも、詐欺行為は置かれた環境の変化に応じて進化します。禁酒法が敷かれた1920年代の米国では、マフィアがアルコールに対する需要につけこむ一方、多くの市民は調達先の合法性にあえて目をつむりました。デジタル業界では、どの国でもモバイルの成長が続いています。近年のコムスコア・データによると、英国ではスマートフォンとタブレットがデジタル機器使用時間全体の60%を占め、米国ではその割合が65%に達しています。 インドネシア、インド、中国などアジアのモバイル志向が強い国では、この数字はさらに高くなるでしょう。そのため、マーケターのモバイル広告在庫の需要が高まっています。禁酒法時代のようにアドフラウドを見逃してはもらえないものの、アドフラウドをたくらむ詐欺師たちは、一部の広告主の怠慢に付け入ることができるでしょう。

モバイルは細分化が進んだエコシステムゆえに、新たな課題が持ち上がります。デバイス、OS、メディア形式が多様化し、モバイルブラウザとアプリ経由のアクセスが混在する中、モバイル広告主から見た豊富な機会は、同時に詐欺師たちにも数多くの攻撃ポイントを作りだしています。

以前から存在したPC用の詐欺手法がモバイルにも使用される一方、モバイルプラットフォーム独自の新たな手法も加わりました。ユーザーが使用を終えた後も裏で絶えず広告が配信されるようアプリをプログラムしたり、ユーザーがブラウザかアプリどちらか一方しか見ていないのに両方に複数インプレッションを配信することも可能です。デバイスを乗っ取り、所有者が知らないうちに広告を閲覧し続けることもできます。

iOSとアンドロイド、アプリとモバイルブラウザなど、あらゆる種類のモバイル端末で悪意ある活動や疑わしい活動が検出されていることから、詐欺師たちは区別なく攻撃を仕掛けていると思われます。モバイルでIVTを避ける抜け道はないのです。

マーケターの反撃
あらゆる種類のアドフラウドへの対策はキャンペーンの企画・実施に欠かせない対処可能な要素だと認識することが第一歩です。購入する在庫の大半が本物の人間に配信されていなければ、マーケターが目指すリーチやフリークエンシー、ブランドに対する態度と売上改善を正確に評価することはできません。他の成果指標を検討する前に、まずは有効インプレッションに基づく目標値を設定すべきです。

こうして発想を転換してから、IVTを検出・予防するため積極的かつ高度なアプローチを取り入れます。お金がからんでいる以上、詐欺師たちも広告収入を得る新たな手段を積極的に開発しています。単純なブラックリストでは間に合いません。こちらを欺こうとしている相手以上に、高度でダイナミックな技術・サービスを活用する必要があります。

最後に、マーケターは広告在庫の購入先・購入方法への意識を高めることで身を守ることもできます。プレミアム広告在庫は、それ以外のサイトと比べIVTが大幅に低下します。仲介人や高度なプログラマティック・プラットフォーム経由で広告在庫を購入する場合、広告主はターゲットオーディエンスだけでなく、在庫の質にも注意することが大切です。

図 3: サイトの種類に応じてIVTは変化する

広告料の課金方式もひとつの要素で、IVT業者にとって最もハードルが低い方式がCPMベースのキャンペーンです。CPA(顧客獲得単価)などの方式を使えば、botやIVTを用いたアドフラウドの発生をむずかしくできます。

IVTとアドフラウドは、何年も前からPC広告を利用して広告収入を吸い上げてきました。消費者によるスマートフォンやタブレットの使用時間が増えるに伴い、モバイルで利益を手にするチャンスに目をつけているのは広告業界だけではありません。犯罪者も、この動向に狙いを定めています。

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アドフラウドやノン・ヒューマントラフィック(NHT)が大きな問題になっていることについて、皆さんは既にご存知のことと思います。広告が実際の人間に届かなければ、大きな問題になります。
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