- 2016年8月22日

デジタル広告界の選手と審判

スポーツの世界では大会を円滑かつ公正に運営するため、選手と審判の役割をはっきり定めることが大切です。中立的な第三者がいることで、双方の対戦者が平等に扱われ、ルール適用の一貫性が保証されるため、試合結果を信頼できます。デジタル広告の世界にも、同じ原理をあてはめることができます。

スポーツの場合、選手が勝手に競技を解釈しようとすると、審判の明白な判定によってすぐさま誤りが正されます。デジタル広告では、エコシステムの全関係者が様々なファーストパーティ、サードパーティツールを利用できるため、個々のケースで報告された正確な内容や、キャンペーンの購入・販売・評価に際しどの数値を使うのが適切かを確認したいという、より複雑なニーズが存在します。パブリッシャーやアドサーバーが、広告パートナーに対して意図的に誤った情報を与えることは少ないとはいえ、当然ながら自社をできる限りよく見せる指標や評価基準を使って自らの価値を示したがるでしょう。

媒体側がばらばらなツールや評価基準を使って自社の実績を評価した場合、結果を確実に比較することが不可能ではないにせよ、非常に難しくなります。これは広告主にとって好ましい状況ではなく、混乱を招くことに繋がり、パブリッシャーも自社在庫の価値を証明できなくなります。媒体側の各社が一番良い数字だけを選んで見せれば、本当に価値ある在庫が注目を集められず、高めの料金設定を正当化することもできません。公式な採点を行なう審判が必要です。

現在の市場でいえば、代表的な例は広告のビューアビリティの問題です。Media Ratings Council (MRC)は、ディスプレイ広告の場合は広告面積の50%が1秒以上、動画広告の場合は2秒以上表示されたインプレッションを、ビューアブルな広告と定義しています。比較的単純な基準に思えますが、ベンダー間のビューアビリティ評価基準の違いを考えると、広告主や代理店にとっては複雑になります。同じキャンペーンまたはメディア・エンティティを2種類の尺度で評価できる場合、安易に数値の高い方を選択するか、厳正な評価基準を用いて数値の上昇に取り組むかというむずかしい決断を迫られます。

再びスポーツに例えると、試合で出来る限り高い得点を出すことが理想的に思えるかもしれません。しかし、そのために公正性が犠牲になってよいでしょうか。マーケティングの世界でも同じです。パブリッシャーにとって、ビューアビリティは高い方が望ましい。その数値を、自社在庫の質を証明する手段として利用できるからです。代理店にとっても、クライアントに配信パフォーマンスを報告する際の指標として都合が良いです。けれど実際には、数値に正当な根拠があり、複数のキャンペーンやメディアの公平な評価が可能である場合に限って、ビューアビリティが意味を持ちます。例えば、ビューアビリティが高くても、そのうち50%が無効なトラフィック(IVT)に配信されたインプレッションであれば、他の評価基準で報告された広告効果は半減するかもしれません。

IVTは、botが「閲覧した」インプレッションを計算に含めることでビューアビリティを引き上げますが、実際にブランドや売上に好影響をもたらす可能性はありません。これは計測結果に矛盾を生むだけでなく、最悪の場合、ビューアビリティが劣るメディアの購入が敬遠されることで、アドフラウド集団が違法な広告収入を手に入れ続けます。

こうした基本的な問題に加えて、微妙な問題がいくつもあります。そのツールは開かれている全てのウィンドウを計測するのか、それとも一番上のウィンドウだけなのか? 閲覧可能なウィンドウ以外に配信される広告や、互いに重なり合った複数の広告を見分けられるのか?ルールを解釈し、そのルールの確実な理解と出来る限り統一した適用を保証する審判が必要です。

そのためにMRCは現在、ビューアビリティ測定業者を認定する際に複数の手法で検証しています。どのアウトプットが望ましいかという感情的な選択でなく、機能や手法などの情報に基づいてビューアビリティ測定業者を選定できるのです。どんなルールが適用されるかを知れば、関係者全員が期待水準を設定し、必要な調整を行い、互いにメリットを生むようにパフォーマンスを改善できます。

審判がいなかったり両チームが別々のルールに従って競技したりすればスポーツが混乱に陥るように、デジタル産業の成長は中立的な審判による明確な計測基準を一貫性をもって適用できるかどうかにかかっています。ここで近道を探してもメリットはありません。参加者全員が一層の努力を求められますが、より高い基準を設定することで、同時に真に価値あるプレイヤーが輝けるのです。


Joe Nguyenは、あらゆるオーディエンスやブランド、消費者動向を正確に測定するクロス・プラットフォーム測定企業であるコムスコアのアジア太平洋シニア・バイス・プレジデントです。アジア太平洋でコムスコアの製品・サービスの販売および提供を統括し、域内13カ国へ急速に拠点を拡大しています。

オンライン分析業界に20年以上携わってきたベテランで、サイト側の分析だけでなく、パネルベースのオーディエンス計測においてベンダー側とユーザー側のどちらも経験しています。積極的なソートリーダーとして、域内の主要なデジタル、メディア、テクノロジー関連会議で発言しています。